絵の上達のためにはとにかく描くこと!っていう意見をよく見る。
一方でこんな意見も。
上手くなるために、俳句を1000句よむとか、ドローイングを1000枚描くとか、、自身はまったく賛同しません。
— 画家・絵師 福井安紀 (@xTAyVTtCY9N7uqg) 2024年6月3日
「創出したい」という気持ちが満ちていたらよいですが、1000作も十分な気持ちで制作できるはずがありません。
結果的に、「気持ちを抜いて創る」という悪い習慣を身につけそうで、残念です。
結局どっちなんじゃー!って思うけれど、これ、両方合ってる。
技術をあげるにはとにかく描くのが大事。描けば描くほどうまくなる。
自分の表現を掘り下げるにはとにかく描いててもダメ。しっかりと一つの作品を作り上げる方がいい。
絵を描いていることに、価値があるということは、「絵を描いていないこと」にも、大きな意味があります。
— 画家・絵師 福井安紀 (@xTAyVTtCY9N7uqg) 2024年5月30日
表現の基盤となるいろいろな価値観を感じ取ったり、描きたいモチベの本質を更新したりするからです。
一番いけないのは「惰性的に描き続ける」こと。
惰性的に食べ続けたらダメなのと似ている。
世の中、技術をあげるための本ってたくさんある。ノウハウを紹介する動画もいっぱいある。でも、自分の表現を掘り下げたり自分の描きたいものを見つける方法ってあんまり体系的に整理されているものがないなぁって思う。そこに悩んでいる人、たくさんいそうなのに。
ネットで検索すると「たくさん絵を見てインプット」「リフレッシュする」というような内容が出てくるけれど、そう簡単にはいかないことを私自身がよく知っている。
前に読んだので正しく再現できているか不安ですが、こちらの本の中に載っている話を紹介します。
荒井良二さんは絵本をつくるワークショップで「クリスマスのモチーフを使わずにクリスマスの絵本を描く」というものをやったそうです。ツリーやサンタなんかはNG。荒井さんが描いたのは「祈り」と「ろうそく」の絵本。荒井さんは普段から自分の心に響くモチーフを見つけておくのが大切だと言います。
自分の表現を掘り下げたり描きたいものを見つけるっていうのはこれに似ていると思う。
すぐにどうこうできるものじゃない。時間をかけてゆっくり見つけておいて、いつかぽんっと形にできる瞬間が来る。急いでしまうとありふれたモチーフや目につくものに頼るしかなくなる。焦っても見つからない。
でも早く見つけたくなるよねー!すぐに答えが欲しくなってしまう現代人よ…
それを踏まえた上で、私自身いろいろあれこれ試し、これはよかったなと思うことを紹介します。それはこちら。
①いい絵を見る
②楽しく描く感覚をとりもどす
④アーティストデート
⑤自分にとって大切な思い出を思い返す
⑥熟成期間を設ける
①いい絵を見る
あれ?結局ネットでよく見るやつじゃない?
でもやっぱりいい絵を見るのは大事です。別に世間から評価されている美術品でなくてもよいです。(素晴らしいので個人的にはおすすめだけど)
自分が憧れてやまない、これぞ理想の最終形態!的な絵を何度も何度も見るといい。いろいろな絵を見るのもいいけどね、本当に好きな絵を何度も味わうのもよいものですよ。
無意識に少しずつ自分の中に理想の絵の要素が蓄積されます。
注意してほしいのが、すぐに真似して描かないこと。技術を盗むためならすぐに描いてもいいけれど、自分の表現にはならないです。真似したなって感じになります。
まずは蓄積!自分の中に馴染むまで待ちます。
②楽しく描く感覚を取り戻す
絵を描き続けていると伸び悩み始め、絵を描くのが楽しくない…ってなっちゃう人をよく見ます。
勉強熱心な人ほどそう。
いろんなテクニックに縛られて描きたいものも見失っちゃう。
一回上手く描こうという気持ちを忘れて、楽しく感覚を取り戻すことが大事。
まず、ぐちゃぐちゃお絵描きをしてみる。手の動きがそのまま紙に伝わるクレヨンかオススメ。
まず今の気分に合う色を選びます。
利き手とは反対の手でクレヨンをもち、目をつぶって紙にぐるぐる〜とテキトーに線を描きます。(ぐるぐるではなくカクカクした線でもよい)
目を開けてクレヨンを利き手に持ち替え、その上から絵を描きます。ぐるぐるが何かの形に見えたらその形になるように描き加えてもいいし(例 なんかこの辺ネズミの形っぽい→ネズミの目とか尻尾を描き足していく)、その時の気分に合わせて抽象的な模様や色をのせていってもいいです。
気楽に自分の感じたことを外に出していく感覚や、紙とクレヨンの書き心地が手に伝わってくる感覚を楽しみます。
他にも今の気持ちを丸、三角、星などの簡単な形と色で描いてみるとか、お散歩して感じた肌の感覚や音楽を聞いて浮かんだイメージを抽象的な模様だけで描く、なんていうやり方もあります。目以外で得た情報を描くわけです。味や匂いでも面白いよ。
形にこだわると上手く描こうという気持ちが湧いちゃいがちなので、簡単な図形にしてください。
続けていくと技術にこだわりすぎてカチカチになっていた心が解けていきます。自由な発想が浮かびやすくなります。
③ジャーナリング
描く瞑想、ジャーナリング。
思い浮かんだことをノートにとにかく描くやつ。個人的にスマホよりノートに書いた方がいい感じがする。理由は特にないけど。
日記ではなく、今頭に浮かんだことをただひたすら描いていく。「書くことがない」って書いてもいいし「なんであの人はあんなに評価されるんだろう」みたいなネガティヴな人に言えない感情だってどんどん書いちゃう。誰にも見せないし、自分も読み返さない。胸のつかえをここにおろすだけ。絵とは全然関係ない人間関係の悩みを書いているうちに、急に絵のアイディアがノートに表れることもある。不思議。
ジャーナリングは心の声です。赤裸々に描けば描くほど、あなたの中にある創作表現の深いところにも届く日がきます。続けよう。創作に関する部分に届くまでは3ヶ月くらいかかることもあるので、続けよう。
ネガティヴな文章を目にするとそっちに心が引きづられるので、絶対に読み返さない。これ約束。
④アーティストデート
この本を読んでやってることなんだけど、自分の中にこどもの姿のアーティストがいると仮定して、その子が喜ぶことにつきあってあげる。つまりデートする、という方法です。
インナーチャイルドを想定するイメージに近いんかな。インナーチャイルドに詳しくないからあまり勝手なことを言えない。
こどもアーティストは子供なんでね、損得とか合理的かとか考えてません。ときめきであれやりたい、これ欲しいって判断します。
例えば、子どもの頃好きだったファンシーで可愛らしいシール。理性が「シールなんて使うところないし、大人向けのデザインじゃないし」とか言ってくるけど、自分の中のこどもアーティストが「かわいい〜」って言ってるのなら買ってあげます。そしてそのシールを眺めたり、どこかに貼ってみたりする。大事なのは買ってあげることではなくて、子どもアーティストに寄り添って一緒に時間を過ごすこと。遊ぶことです。
そうすると、「世間が良いとしているもの」から離れて「本当に自分の好きなこと」に近づいていきます。
最初のうちは何をしたらいいかわからないかもしれません。
そんな人は
・子どもの頃好きだったもの
・やりたかったけどできなかったもの、いつかやりたいと思っているもの
・大金持ちだったら挑戦してみたいこと
・もし何でも叶う世界に行ったらなりたいもの
あたりをとっかかりにしてみるのがいいと思います。
「ミュージシャンになりたかったけど何すんの?無理でしょ、お金もないし。」と思うかもしれません。歌ってみたり、中古のCDを買ってみたりすることはできると思います。簡単なことからやってみましょう。小さな子の遊びみたいに。
私の体験を話すとこんな感じです。
子どもの頃ぬいぐるみが好きだったなと思い出し、自分に一つプレゼントしようと思いました。買ってみて、かわいいなぁと思いつつも子どもの頃のように愛でることはできず、結局そのぬいぐるみは長女にあげました。代わりにぬいぐるみをお店で見たり、ぬいぐるみ作家さんのSNSをチェックして楽しむことにしました。ある時長女と一緒にサンリオの塗り絵をしていたら「ぬいぐるみみたいでかわいいな。自分用にも塗り絵が欲しい」と思ったので理性が「いらなくない?」と言ってくるのを制し、幼児向けの塗り絵を買いました。どうやったらぬいぐるみみたいに可愛く柔らかい感じに塗れるかな〜と思っていたら、ひらめき。パステルを使ってみよう!となり、パステルの本を図書館で借りてきて、パステルで塗り絵を始めました。これがまた楽しい。
…………というような感じです。自分の表現を掘り下げるのとは違くない?って思いますよね。
でも掘り下げるために何かやろうとすると、有益そうなところばかりに手を出してしまうんです。だから楽しく創造的なことをする。自分の好きなことを見つける。遊びの中からアイデアのピースが揃うのを待つ。
直接的なことじゃないけれど、この遊びがないとだんだん創造することに疲れてきてしまいます。これは創造の泉が枯れないように湧き水の源泉を見つける作業です。
ちなみに、アーティストデートは絵とか関係なく趣味を見つけたい人にもいいと思う。
⑤自分にとって大切な思い出を思い返す
最近始めて思いの外良かったやつ。
10年前の何気ない出来事とかね、記録しているわけでもないのに覚えてたりするじゃないですか。それって時間というフィルターをたくさん通り抜けて残った記憶なので、自分にとっては何かしら印象的だった出来事ってことになります。
それはもう自分だけのオリジナル要素になりうるでしょ!っていう。聞いた話ではなく体験したことですし、深みが違う。
その時の空気とかその場所にあったものとかを思い出して、ノートにできるだけ詳細に書く。
それを作品のテーマにしたり、作品作りのヒントにする。
思い出して辛くなるようなやつはやめよう。精神衛生上よくないから。
⑥熟成期間を設ける
ずいぶん長くなってきた…。みんな大丈夫?ついてきてる?
色々描いてきたけれど、アイデアの熟成期間を設けるのは大事です。
パッと思いついてパッと描くと「状況を説明する絵」になりやすいです。
例えば、学生時代の友達と歩いた帰り道を描こう!って思ったらそのままそれを説明する絵になってしまうというか。
思いついて心に留めたまま過ごすと、「夕焼けと電線って綺麗だな」「下校時間の風って気持ちいい」「このモデルさんの表情すごく綺麗!」「あの学校の制服いいな」「この風景使えそう」などなど別の情報が入ってきて、それらを統合させたイメージの絵に変えていけます。
あんまり足し算しすぎても良くないんで、情報が入って抜けてってしていくうちに残ったものの中から構成できるようになってくれば、熟成完了です。
この期間がねーーいい絵には必要なんじゃないかなって。
だからたくさん種をまいて時間をかけて、やっと自分の表現とか好きなものを描けるようになるんだと思います。
偉そうに書いてきたけど私もまだまだ修行中。上に書いたようなことを実践しながら試行錯誤しています。
悩んでいる人、焦らずに、共に励んでいきましょう。
この記事が皆様の豊かな創造ライフに少しでもお役に立てたら嬉しいです!