いわさきちひろさんが風姿花伝を愛読していたと聞いて、私も読みました。
能の道を説いたものではあるのですが、芸術全般に言えるような言及も多く、世阿弥が鋭い視点を持っていたことがわかります。室町時代にこんな理論を確立していたのか、と驚き。現代にも通じる、日本の美学書と言えます。
ちひろさんの息子であり美術評論家でもある松本猛さんは、風姿花伝の中にある「秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず」という言葉を、抑えた演技の中に深い情趣が表れるという意味で紹介しているのだけれど、私には「人を感動させる理論を相手にわからないように行うことで心を動かすことができる。相手がそれをわかっていたら大きく心を動かすことはできない」と言っているようにしか捉えられませんでした。どうなんでしょ。
以下、私の解釈ですが、
風姿花伝では、能を演じるタイミングも重要だと言っていて、相手に新しさを届けることで感動を与えられると言っています。
例えば、いつもはこういう役柄を演じているというイメージがある役者が、大一番の舞台で全く違う役柄を見事に演じて見せる。観衆は驚き、新鮮さを感じ、より感動する。
また、ずっと春の演目を続けていたところで、ある日初夏の演目を行う。新しい夏が来るその新鮮さを感じ、観衆は心が湧く。
しかし、そういったカラクリがわかった状態で「あの役者は次の演目で何か驚くようなことをやってくれるぞ」と思いながら見ると、まあいい演技だったなとは思っても心に残るような感動は随分と減ってしまう。
だからこそ、そのカラクリは秘して、踊るのだ、と。
風姿花伝は非常に戦略的な面があって、どのようなものを美とするかだけでなく、どうしたら勝てるか、ということも説いています。
民衆の心は、昼は陽、夜は陰であることから、昼は陰、夜は陽の演目が受けやすく、どのように演目を進めていくべきか、と言ったことも書かれていて、目から鱗の連続でした。
自分の創作においても学ぶべきところが多かったです。
私が読んだのは現代語訳版。
こちらの現代語訳は分かりやすいながら、話し言葉のように軽くなりすぎてもおらず、ちょうどよかったです。
原文も非常に美しい日本語が使われていて良いらしいです。長くはなくすぐ読めますので、芸術に携わる方は一度読んでみると良いかと思います。
おまけ。
ザーッと描いたやつ。